こんばんは。仙台空港北クリニック院長の蒲生俊一(医学博士 / 呼吸器専門医)です。
インフルエンザで発熱すると、抗ウイルス薬(ウイルスが増えるのを抑える薬)を使うべきか迷う方が多いものです。今からでも間に合うのかと不安になることもあります。本記事では、抗ウイルス薬を医師に相談するとき何を伝えればよいかを解説します。あわせて、薬に期待できる効果と、薬の相談より先に受診を急ぐべきサインも整理します。
診察室では短い時間で話すことになります。何を、どの順番で伝えるとよいかを、順に見ていきます。
インフルエンザの発熱、抗ウイルス薬は何時間以内に相談する?
インフルエンザで抗ウイルス薬を相談するなら、症状が始まってから48時間以内が一つの目安です。2019年の米国の総説(あるテーマの研究をまとめて解説した論文)では、発症から48時間以内の受診なら治療を検討できるとされています。[1] 同じ総説では、治療の利益は、症状が始まって24時間以内に開始したときに最も大きいと説明されています。[1]
診察では、熱に気づいた時刻だけでなく、最初の症状が出た時刻も伝えてください。インフルエンザでは多くの場合、呼吸器の症状や筋肉痛が急に始まり、熱を伴わないこともあります。[2] たとえば前の晩から体の節々が痛み、翌朝に熱が出たなら、前の晩のことも医師に伝えてください。48時間は一律の締め切りではなく、医師が判断する際の目安です。
| 伝えること | 伝え方の例 |
|---|---|
| 最初の症状が出た時刻 | 「昨夜9時ごろから悪寒と体の痛みがありました」 |
| 熱に気づいた時刻と最高体温 | 「今朝6時に38.5℃でした」 |
| 熱以外の症状 | 「せきと筋肉痛が強く、のども痛いです」 |
正確な時刻を覚えていなければ、「昨日の夕方ごろ」のように、覚えている範囲で構いません。
院長蒲生熱が出た時間より、最初に「あれ、おかしいな」と思った時間を思い出してくださいね。
受診の前に、最初の症状に気づいた時刻と熱に気づいた時刻を、分けて書き留めておいてください。
インフルエンザの抗ウイルス薬で、熱や症状はどのくらい楽になる?
ほかに病気のない患者さんでは、インフルエンザの抗ウイルス薬に期待できるのは、主に「治るまでの時間が短くなること」です。米国の総説では、抗インフルエンザ薬(オセルタミビルなど)で、病気の期間が約24時間短くなるとされています。[1] 重い合併症(もとの病気に続いて起こる別の病気)の危険を下げる可能性も示されています。[1]
「約24時間」は治るまでの期間の差であって、飲んだその日に熱が下がる約束ではありません。
ほかに病気のない12〜64歳の外来患者さんを対象にした、2016-2017年シーズンの試験があります。[3] バロキサビルを飲んだ人は、プラセボ(有効成分を含まない偽の薬)を飲んだ人より、症状が軽くなるまでの時間が短くなっていました。[3] オセルタミビルを飲んだ人とは、同じくらいの時間でした。[3]



薬を飲めば今夜には下がる、とは言えません。治るまでを少し縮める薬だと思ってください。
診察では「自分の場合、薬を使うかどうかをどう考えればよいですか」と聞いてみてください。
インフルエンザの発症から48時間を過ぎたら、もう相談しても遅い?
48時間を過ぎても、医師に相談してかまいません。使うかどうかの判断は、そのときの症状や持病によって変わります。最初の症状が出た時刻と、今の症状の変化を伝えてください。
お子さんの場合は、参考になる資料があります。米国小児科学会の2024-2025シーズンの推奨は、次の子どもに治療を勧めています。[4] 入院中や重症の子ども、症状が悪化していく子ども、合併症の危険を高める持病のある子どもです。[4] 発症からの時間は問いません。[4] これは米国の子どもを対象にした推奨で、成人や日本の診療にそのまま当てはめるものではありません。
大人の方も、インフルエンザにかかった人の多くは1週間以内に回復します。[2] 症状が軽くなってきているときも、経過が順調かを受診で確認し、薬を使うかどうかは医師と相談してください。



2日過ぎても、相談して大丈夫です。今どのくらいつらいかを教えてください。
48時間を過ぎていても、息苦しさや意識の変化があればすぐに、持病の悪化があればその日のうちに受診してください。
インフルエンザの検査を受けないと、抗ウイルス薬は相談できない?
インフルエンザの検査を受けていなくても、抗ウイルス薬は相談できます。米国の総説では、外来では多くの患者さんで症状と診察からインフルエンザと診断され、検査による確認は必須とされていません。[1] 日本での実際の対応は医療機関によって異なります。検査は、入院している患者さんや、診断が確定すると治療方針が変わる患者さんで役立つ可能性があるとされています。[1]
検査にはいくつか種類があり、インフルエンザと新型コロナウイルスを同時に検出できる検査も使われています。[2] 検査は薬をもらうための条件ではなく、診断を確かめたい場面で使う道具です。
診察では、周囲の状況も参考になります。家族や職場でインフルエンザと診断された人がいるか、いつ接触したかを伝えてください。すでに別の医療機関で検査を受けていれば、その結果も添えてください。



周りで流行っているかどうかも、大事な手がかりです。分かる範囲で教えてください。
受診の前に、周りで最近インフルエンザと診断された人の診断日を確認しておいてください。検査の結果が出ていれば、その紙や画面も持参すると伝わりやすくなります。
インフルエンザの薬の相談で、年齢・持病・妊娠はなぜ伝える?
年齢・持病・妊娠は、薬を使うかどうか、どの薬にするかを医師が考える材料になります。米国小児科学会の推奨では、合併症の危険が高くない子どもの外来治療は、発症から48時間以内に始められる場合に検討してよいとされています。[4] 生後6か月未満の弟妹や、合併症を起こしやすい持病のある同居家族がいる子どもにも、治療を検討してよいとされています。[4]
12歳以上で合併症を起こしやすい条件(たとえば65歳を超える年齢)のある外来患者さんを対象にした試験もあります。発症から48時間未満の患者さんで、バロキサビルはプラセボより症状の改善が早くなっていました。[5] この試験でも、オセルタミビルとの差は大きくありませんでした。[5] 研究者は、合併症を起こしやすい人への早期治療を支持しています。[5]
妊娠中と産後の女性は合併症の危険が高い可能性がある一方、抗ウイルス薬の臨床試験からは除外されてきました。[6] 観察研究では、オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬による治療で重い経過が減っていました。[6] 母体・胎児・新生児への悪い影響も増えていませんでした。[6] バロキサビルは妊娠中・産後の安全性と効果のデータが不足しており、2021年の総説ではこの集団への使用は推奨されていません。[6] どの薬を使うかは、妊娠週数を含めて医師と相談してください。
| 伝えること | 伝える理由 |
|---|---|
| 年齢(子ども、65歳を超える方) | 子どもの治療の考え方は年齢や状態で変わります。[4] 65歳を超える年齢は、合併症を起こしやすい条件の一つです。[5] |
| 持病の有無と病名 | 合併症の危険を高める持病のある子どもは、発症からの時間にかかわらず治療の対象とされています(米国小児科学会)。[4] |
| 妊娠中・産後かどうか、妊娠週数 | 妊娠中・産後の観察研究では、ノイラミニダーゼ阻害薬で重い経過が減っていました。バロキサビルは妊娠中・産後に推奨されていません。[6] |
| 同居家族の年齢と持病 | 生後6か月未満や持病のある同居家族がいる子どもは、治療を検討してよいとされています(米国小児科学会)。[4] |



妊娠中の方は、受診のときに最初に教えてください。妊娠中に避けたほうがよい薬があります。
お薬手帳や母子健康手帳があれば持参し、持病・妊娠週数・同居家族の年齢を診察の最初に伝えてください。
インフルエンザの発熱で、すぐ受診すべきサインは?
インフルエンザの熱に、意識がぼんやりする、けいれんが起きる、呼びかけへの反応が鈍いといった変化が加わったら、すぐ受診が必要なサインです。抗ウイルス薬の相談は、その後で構いません。ほとんどの人は1週間以内に回復する一方で、一部の人は重い合併症や命にかかわる合併症を起こします。[2]
| 様子 | 対応 |
|---|---|
| 呼びかけへの反応が鈍い、意識がもうろうとしている、けいれんがある | 夜間でも救急を含めてすぐ受診してください。けいれんが続く、または意識が戻らないときは119番に電話してください。 |
| 息が苦しい、呼吸が速い、唇や顔色が悪い | 夜間でも受診し、唇や顔色が悪いときは救急へ連絡してください。呼吸の様子は動画を撮っておくと伝えやすくなります。 |
| 水分がとれない、おしっこがほとんど出ない | その日のうちに受診してください。飲めた量と最後に排尿した時刻を伝えてください。 |
| いったん下がった熱が再び上がる、せきや痰が悪化する | 早めに受診してください。息苦しさを伴うときは夜間でも受診してください。 |



ぼんやりして目が合わないときは、心配な状態です。迷ったら夜でも受診してください。
表のサインが1つでもあれば、抗ウイルス薬の相談は後回しにして、まず医療機関へ連絡してください。
インフルエンザで受診する前に、用意しておくと役立つメモは?
インフルエンザで受診する前のメモは、6つに絞ると書きやすくなります。発症の時刻、熱以外の症状、周囲の流行、年齢・持病・妊娠、飲んでいる薬とアレルギー、そして今いちばんつらいことです。スマートフォンのメモに、次の例のように書いておけば十分です。
| 項目 | メモの例 |
|---|---|
| 発症の時刻 | 昨夜9時に悪寒、今朝6時に38.5℃ |
| 熱以外の症状 | せき、のどの痛み、筋肉痛 |
| 周囲の流行 | 上の子が3日前にインフルエンザと診断 |
| 年齢・持病・妊娠 | ぜんそくあり、妊娠20週 |
| 飲んでいる薬・アレルギー | お薬手帳を持参、過去に合わなかった薬の名前(あれば) |
| 今いちばんつらいこと | 息が苦しい、水が飲めない |
付き添いの方が代わりに話す場合は、本人が言えないこと(夜間の様子、飲めた量、反応の鈍さ)を補ってください。子どもの場合は、いつもの元気と比べてどう違うかが役に立ちます。



メモがあれば、伝え忘れを防げます。きれいに書き直さなくて大丈夫ですよ。
受診の前に、6項目を書いたメモの画面をそのまま見せられるようにしておいてください。診察室では、そのメモを見ながら話してかまいません。
まとめ
- 抗ウイルス薬の相談では、熱に気づいた時刻だけでなく、最初の症状が始まった時刻も伝えます。
- ほかに病気のない患者さんでは、薬に期待できるのは治るまでの時間が短くなることで、飲んですぐ熱が下がるわけではありません。
- 年齢・持病・妊娠・同居家族の状況は、薬を使うかどうかを考える材料になります。
- 意識の変化やけいれん、息苦しさがあれば、薬の相談より先にすぐ受診します。
よくある質問
- インフルエンザの抗ウイルス薬を飲めば、熱はすぐ下がりますか?
すぐに下がるとは限らず、薬で短くなる病気の期間は、ほかに病気のない患者さんで約24時間とされています。[1] 飲んだ翌日に熱が残っていても、効いていないと決めつけず、水分と休養を続けてください。ただし、息苦しさや意識の変化があるときは、翌日を待たずに受診してください。
- 発症から48時間を過ぎたら、抗ウイルス薬は相談できませんか?
相談してかまいません。薬を使うかどうかは、症状や持病などを踏まえて医師が判断します。お子さんの場合、米国小児科学会の推奨では、入院中や持病のある子どもは発症からの時間にかかわらず治療の対象です。[4] 息苦しさや意識の変化があるときは、時間を理由に受診を遅らせないでください。
- 妊娠中でも、インフルエンザの抗ウイルス薬は使えますか?
使える薬があります。観察研究では、オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬で治療した妊娠中・産後の女性は重い経過が減っていました。[6] 母体や赤ちゃんへの悪い影響も増えていませんでした。[6] バロキサビルはデータが足りないため、妊娠中・産後には推奨されていません。[6] 受診時は妊娠週数を最初に伝えてください。
- インフルエンザの検査が陰性でも、抗ウイルス薬は出ますか?
陰性でも、薬を使うかどうかは症状や診察を合わせて医師が判断します。米国の総説では、外来では多くの場合、症状と診察でインフルエンザと診断され、検査での確認は必須ではないとされています。[1] 日本では、医療機関によって対応が異なります。周囲の流行状況と症状の始まり方を具体的に伝えると、検査結果と合わせて判断しやすくなります。
【免責事項】
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、医師による診察・診断・治療に代わるものではありません。記載内容は公開時点の医学的知見に基づいていますが、個々の患者さまの病態や背景によって適切な対応は異なります。
症状にご不安がある場合は、かかりつけ医や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
- Gaitonde DY, Moore FC, Morgan MK. “Influenza: Diagnosis and Treatment.” Am Fam Physician, 2019 Dec 15; 100(12): 751-758. PMID: 31845781
- Uyeki TM, Hui DS, Zambon M, Wentworth DE, Monto AS. “Influenza.” Lancet, 2022 Aug 27; 400(10353): 693-706. DOI: 10.1016/S0140-6736(22)00982-5 PMID: 36030813
- Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, Lee N, de Jong MD, Hurt AC, et al. “Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents.” N Engl J Med, 2018 Sep 06; 379(10): 913-923. DOI: 10.1056/NEJMoa1716197 PMID: 30184455
- Committee on Infectious Diseases. “Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2024-2025: Policy Statement.” Pediatrics, 2024 Oct 01; 154(4): e2024068507. DOI: 10.1542/peds.2024-068507 PMID: 39183669
- Ison MG, Portsmouth S, Yoshida Y, Shishido T, Mitchener M, Tsuchiya K, et al. “Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial.” Lancet Infect Dis, 2020 Oct; 20(10): 1204-1214. DOI: 10.1016/S1473-3099(20)30004-9 PMID: 32526195
- Chow EJ, Beigi RH, Riley LE, Uyeki TM. “Clinical Effectiveness and Safety of Antivirals for Influenza in Pregnancy.” Open Forum Infect Dis, 2021 Jun; 8(6): ofab138. DOI: 10.1093/ofid/ofab138 PMID: 34189160


