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【凶悪な忍者】新型肺炎から回復しても後遺症が残る肺の線維化とは?

新型肺炎 肺の繊維化

おはようございます。仙台空港北クリニック院長の蒲生俊一(医学博士 / 呼吸器専門医)です。
※当記事は文末「参考文献」を根拠としています

新型コロナウイルスに感染していわゆる「新型肺炎」になると、肺の一部にすりガラス状の影がCT画像で確認されるようになります。

そして一部の重症化例では、すりガラス状の影が両肺の広範囲に急速に拡がり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という命にかかわる状態に進展してしまいます。

ARDSになると人工呼吸器やECMOの装着が必要となる事が多く、長期間のICU管理や寝たきり状態などでかなり体力が奪われてしまうので大変恐ろしい病気ではあるのですが、今回の記事ではARDSから回復したあとも決して楽観視は出来ない重大事件と言ってもいい「肺の線維化」について解説いたします。

「重大事件なんて大げさな」と思われるかもしれませんが、重大事件という言葉はむしろ控えめで、実態としては凶悪事件と描写したほうがより正確かも知れません。

目次

凶悪事件の正体は「肺の線維化」

新型コロナウイルスで最も怖いのはARDSに陥り呼吸が出来なくなってしまうことです。

それと共に、とことん気を使わなければならないのが肺の線維化です。言葉は悪いですが、こいつはめちゃくちゃ凶悪な忍者です。

息を吸えなくなるのが肺の線維化

新型肺炎で最も警戒すべき「肺の線維化」について、CTで撮影した新型肺炎の実際の画像 1) を見ていきましょう。

AとBは新型コロナウイルスに感染した同一患者の肺の同一部位(気管支分岐部付近と肺底部)でBはAから3週間後のCT画像です。下段の画像の薄緑の矢印部分が先ほどから言っている「肺の線維化」です。

「肺線維症」という似たような病気がありますが、肺線維症は典型的には時間をかけてゆっくりと線維化が進行するのに対し、新型肺炎の場合、2-3週間という大変短い期間で急速に肺の線維化が進行してしまいます。

線維化の程度が強ければ強いほど肺は固くなり縮みます。肺活量の低下が認められ息切れや空咳(からせき)の原因となりますが、高齢者の場合「息苦しい」などの初期症状に本人が気づけないことが多く、病院に運ばれてきた時には取り返しがつかないくらい肺の線維化が進行していることがあります。

肺の線維化が一旦進んでしまうと元に戻すのは難しく、コロナから回復したとしても大きな後遺症を残してしまいます。

ハシゴに例えて肺の線維化を説明

CT画像たけだと分かりにくいと思いますので、ハシゴを例にして新型肺炎における肺の線維化について説明してみます。

肝硬変やケロイド、強皮症などでも線維化という現象が起きますが、細胞組織が結合組織の異常繁殖によって引っ付いてしまってカチカチになる事を線維化と言います。

「結合組織」を正確に説明すると、コラーゲンだとか細胞外マトリクスとかの専門用語だらけになり、あなたが迷子になってしまうといけないので「ハシゴ」をイメージしてください。

結合組織

ハシゴってグラグラするじゃないですか。なので一人では登らず下で脚(あし)の部分を別の人に支えてもらうのが作業安全の基本ですが、上記画像の「結合組織」の部分をやたらめったら増やしたらハシゴのグラグラって安定して補助の人は要らなくなりそうですよね。

このようなイメージ↓です。

繊維化してしまった肺

たしかに安定はしそうですが、脚を短くしたり長くしたりの調整ができなくなってしまいハシゴとしての使い勝手が極端に悪くなってしまいますよね。

このように細胞と細胞を軽く固定していた結合組織が異常増殖することによって肺細胞がカッチカチになってしまうことを「線維化」と言います。
※肝機能障害が悪化した「肝硬変」もこれと同じイメージです

一旦線維化が起こってしまうと元に戻すのは難しいです。従って、もし新型コロナウイルスによる肺炎から無事回復して退院したとしても、線維化が進んでしまっている場合は、肺が膨らまず肺活量が低下してしまい、すぐ息が切れるようになってしまいます。

線維化を起こしているのは間質(かんしつ)

この肺の線維化は、肺胞と肺胞の間にある「間質(かんしつ)」と呼ばれる場所で起きています。

間質と肺胞

間質には毛細血管が張り巡らされていて、口や鼻などから肺胞に入ってくる酸素を毛細血管が取り込んで全身に酸素を供給するのですが、間質が線維化してしまうと肺がカッチカチになり肺が膨らまなくなるので肺まで酸素が届きにくくなってしまいます。(=肺活量の低下)。

そして、ただでさえ少量しか届いていない酸素を、異常増殖した結合組織が邪魔をして毛細血管に流れる血液に酸素を渡せなくなってしまい(=拡散能の低下)、呼吸が相当苦しくなります。

  1. 線維化によって肺が膨らまないからそもそも肺に空気を取り込みにくい
  2. 空気が少量届いたとしても線維化した間質の細胞が邪魔をして血液中に酸素を届けられない

このダブルパンチです。要するに「息が吸えない状態」です。

線維化の主な症状

肺の線維化が進むと出現する症状には以下のようなものが考えられます。

空咳(からせき)

一生懸命咳(せき)をしても痰(たん)は出ません。そのため乾いた咳になります。風邪ひいたときに起きる「ゴホゴホ」ではなく「コンコン」といった咳です。

医学用語で乾性咳嗽(かんせいがいそう)と言います。

労制時息切れ(≒体力低下)

体を動かすと通常よりも息が上がってしまうことを指します。

線維化の進行度合いによって、激しい運動をする時に息切れを自覚するくらいのものから、最重症では着替えなど身の回りの行為をするだけでも苦しくて少しも動けない状態になってしまう事もあります。

低酸素血症

息切れと同様、肺活量の低下、拡散能の低下によって酸素が十分体に取り込めなくなってしまいます。人間が生きていくのに最低限の酸素すら取り込めなくなってしまった場合は、在宅酸素療法(HOT)といってボンベなどから酸素を常に補ってあげる必要が出てきます。

在宅酸素療法の外出用携帯ボンベ

ばち指

ばち指
ばち指

写真のとおりで、指先が丸く広がり太鼓のばちのようになるのが「ばち指」です。

肺の繊維化以外にも、肺癌や心臓の病気、肝硬変など消化器の病気や内分泌の病気などで認められる所見です。こうなってしまう原因は実はまだ良くわかっておりませんが、末梢の低酸素などによって、結合組織の増殖を促す因子が増加するなどの仮説が提唱されています 2)

蛇足になりますが、同じように息切れや低酸素を来す肺の病気であるCOPD(いわゆるタバコ病です)”だけ” では「ばち指」の合併は少ないことが知られており、「COPD患者でばち指を認めたら肺癌の合併を疑え!」というのが私たち呼吸器科医の間では必須の知識です。
呼吸器専門医試験でも頻出です

肺の線維化で見られる所見

肺の線維化の診断は複合的に行いますが、認められる所見をいくつか紹介します。

聴診器で聴くと捻髪音がする

捻髪音(ねんぱつおん、fine crackles)と言いますが、聴診器を肺に胸や背中にあて深呼吸してもらうと、特に吸う時に細かな「バリバリ」「パチパチ」「ベリベリ」みたいな高音が連続して聴こえます。

マジックテープを剥がす時の音に似ているとされ「ベルクロラ音」ともいいます。背中側でより聴こえやすいです。

ただし、接触感染予防の観点から、現在は新型コロナウイルス感染が疑われる患者さんの診察に聴診はしないように推奨されております 3)


聴診器

動脈血中酸素飽和度(SPO2

メディアなどで話題になっているので「パルスオキシメーター」という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。

赤血球(ヘモグロビン)にどれくらい酸素が結合しているかを測る機械がパルスオキシメーターで、指先にカチャっとつけて計測します。

パルスオキシメーター
パルスオキシメーター

入院されたことがある方なら朝や夕方とかに看護師さんがやってきて、体温や血圧、脈拍を測るとともに指につけて測定していることを経験されていると思います。

酸素飽和度(SPO2)はパーセントで表示され、線維化が進むと生きていくのに最低限必要な濃度の目安(90%)を下回ってしまう事があります。そのような場合は酸素を投与し補ってあげる必要があり、退院した後も上で述べた在宅酸素療法を継続する事になります。

余談ですが次期Appleウォッチにパルスオキシメーターの機能が搭載されるという噂を聞いたことがありますが、パルスオキシメーターは医療機器ですので厚労省が医療機器として認定しない限り測定値は参考値扱いになると思います。

画像検査

レントゲン写真の所見として、線維化の度合いによってさまざまですが、典型的には淡い陰影(網状影といいます)や線のような陰影(索状影といいます)が見えることが多いです。また線維化がかなり進行していると、肺がうまく膨らめず小さくなっている様子がわかります。

ただし、レントゲンだけだと影の詳しい性状はわからないことが多く、当院のように高性能のCT検査装置(HRCT)があれば精密検査を行います。HRCTで見た場合すりガラス影と蜘蛛の巣のような線維化像が混在した陰影が確認できます。

CTと肺の画像
CT検査装置

肺線維症の場合、典型的には両側の下の方(下葉といいます)から陰影が出現し、病気の程度に応じて全体に広がっていきますが、一方で肺尖部といって上の方から病変が進行するタイプ(特発性上葉優位型肺線維症: PPFE)があり、こちらの方が進行が急だとされています。

今回の新型コロナ肺炎に伴う線維化像に関しては、武漢での新型コロナウイルス肺炎患者81名のCT画像を分析した報告 4) では、右肺の下の方(右下葉といいます)から片側性に、小さなすりガラス影から始まり、やがてコンソリデーションを伴い全肺葉に拡大する傾向が示唆されています。

また症状出現3週間目には既に線維化の進行が認められるとのことで、上で述べたPPFEよりずっと進行が急です。我々呼吸器科医もすこし驚くほどで、新型コロナウイルスの怖さを実感しております。

参考文献 4) より、症状出現15日目のCTで両側に線維化が認められる

線維化を防ぐ目的でアビガン®投与も検討か(まとめ)

新型コロナウイルス肺炎の結果、線維化が強く残ってしまうとなかなか元に戻る事は難しく、間質性肺炎に対して行われることがあるステロイド剤や免疫抑制薬などの治療も効果はあまり期待できません。

また、アビガン®は、感染初期の投与に効果がある事が示唆されておりますが、いったん線維化してしまったのを元に戻す効果は期待出来ません。

とはいえ現状ではアビガン®などRNAポリメラーゼ阻害薬外に有力そうな治療薬候補がないのも事実であり、肺の線維化が進む前にアビガン®を投与する事で線維化をある程度予防できる可能性はあるのでは?と推察されます。臨床試験の結果を期待したいところです。

冒頭で「凶悪な忍者」と描写しましたが、まさに忍者のごとく間質に忍び込んで肺を瞬く間にカッチカチにしてしまいます。油断も隙もあったものではなく、こんなに早く肺の線維化が進むとは驚きです。

新型コロナウイルス感染症の重症化例では、初期の小さなすりガラス影が出現してから急激に肺炎が進行し、一気に命の危機に陥るだけでなく、回復後も線維化が残り呼吸機能が低下してしまいます。そして、いったん線維化してしまうと元に戻るのは難しいです。

従って、出来るだけ初期の段階で発見し大病院へ紹介する事がリスクを低下させる上で重要と考えられます。当院のように高性能のCTを常設していれば、レントゲン検査だけに比べ、より早い段階で新型コロナの肺所見(すりガラス影)を検出する事が可能です。

おまけ: アビガン®とレムデシビル

アビガン®はもともとは抗インフルエンザ薬としての承認されたもので、新型コロナウイルスに対しての効果はまだ臨床試験中の段階です。

またレムデシビルはもともと抗エボラウイルス薬ですが、アメリカの臨床試験の途中解析結果で新型コロナウイルス感染の重症患者に対する治療効果が認められ、抗新型コロナウイルス薬として重症患者限定で承認を得ています。

日本でもアメリカでの承認を受け、2020年5月7日に特例承認となりました。北米同様重症患者のみへの適応となっており、特に我が国ではICUに入るような “待ったなし” の患者さん限定での使用が想定されています。

アビガン
アビガン®錠

アビガン®(ファビピラビル)
研究室レベルでは新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果を確認しているが、ヒトへの投与ではまだ効果を検証中。催奇形性などの副作用が動物実験段階で指摘されており、要注意。

レムデシビル
アメリカおよび日本で、重症患者限定での臨床使用が特例承認。特に日本ではICUに入る程の最重症患者限定での使用を想定(言ってしまえばこのままだと死亡してしまう可能性が高いので、効果のありそうなものは投与しよう、という事だと考えて大きく差し支えはありません)。
臨床試験で指摘された主な副作用は中程度の肝機能障害や腎機能障害など。ただし、中国での臨床試験では効果が認められなかったとされており 5)、承認自体が拙速だったのではとの声も。

以上

参考文献
1) Spagnolo P, Balestro E, Aliberti S, et al. Pulmonary fibrosis secondary to COVID-19: a call to arms? Lancet Respir Med. 2020; 0(0).
2) Atkinson S, Fox SB. Vascular endothelial growth factor(VEGF)-A and platelet-derived growth factor(PDGF) play a central role in the pathogenesis of digital clubbing. J Pathol. 2004; 203(2): 721-728.

3) 日本医師会「新型コロナウイルス外来診療ガイド 第1版」最終アクセス2020年5月1日
4) Shi H, Han X, Jiang N, et al. Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet Infect Dis. 2020; 20(4): 425-434.
5) Wang Y, Zhang D, Du G, et al. Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet. 2020; 0(0): 1569-1578.


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