こんばんは。仙台空港北クリニック院長の蒲生俊一(医学博士 / 呼吸器専門医)です。
子どもが熱を出して何度も吐くと、水もお茶も口にできず、脱水(体の水分や塩分が足りなくなった状態)になるのではと心配になります。経口補水液(失われた水分と塩分を口から補うために作られた飲み物)をどう飲ませるか、点滴(静脈から直接水分を入れる方法)が必要かは、家庭では決めにくいところです。
本記事は、乳幼児から小学生ぐらいまでの子どもを育てている方に向けて、家庭での水分補給の進め方と、受診を急ぐサインを説明します。根拠は、小児の急性胃腸炎(急に始まる下痢を中心に、吐き気・嘔吐・発熱・腹痛を伴うことがある病気)の総説(ある分野の研究をまとめて解説した論文)や臨床試験です。家庭での具体的な進め方は、英国の5歳未満向けガイドライン(NICE CG84)も参考にしています。大人の方には、この内容がそのままあてはまるとは限りません。
子どもの発熱と嘔吐で飲めないとき、脱水は家庭で見分けられる?
脱水の程度を家庭で正確に見分けることはできず、診察での評価が必要です。米国の総説(対象は子どもの急性胃腸炎)は、脱水の程度を調べるには身体診察が最もよい方法だとしています。[1]診察での所見は、単独よりも組み合わせたほうが脱水の予測に役立つと報告されています。[2]
診察では、脱水スケール(診察で見た様子から脱水の重さを判定する採点表)も使われますが、どれでもよいわけではありません。ある研究では、診察で使われる2種類の採点表の予測力は「まずまず」でした。WHOの採点表と医師の総合的な印象は、脱水の予測に役立つとはいえませんでした。[3]保護者が点数をつける必要はありません。大切なのは、普段との違いに気づいて医療者に伝えることです。
英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)では、次の様子が脱水のサインとされています。家庭での対応の参考:英国NICE
- 具合が悪そうで、悪化しているように見える
- 機嫌が悪い、ぐったりしているなど、反応が普段と違う
- 尿の量が減っている
- 顔色が青白い、まだらに見える、手足が冷たい
院長蒲生体温の高さより、機嫌や反応、おしっこの様子を見てあげてください。
| 見るところ | 受診時に伝えるメモの例 |
|---|---|
| 飲めた量 | 何を、何時に、どれくらい飲めたか |
| 嘔吐 | 回数と、飲んだ直後に吐いたかどうか |
| 尿 | 普段と比べた回数と量、最後に出た時刻 |
| 様子 | 機嫌、反応、顔色、手足の冷たさ |
受診や電話相談の前に、この4項目を時刻つきでメモにまとめてください。分かる範囲で、最後に尿が出た時刻も書き添えてください。
子どもに経口補水液はどう飲ませる?水やジュースではだめ?
経口補水液を使うときは、少量ずつ頻繁に飲ませます。米国の総説(対象は子ども)では、軽い脱水では口から水分を補う方法が治療の中心で、中等度の脱水には経口補水液が推奨されています。[1]英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)も、脱水のある子どもには経口補水液を少量ずつ頻繁に与えること、包装の説明どおりに作ることを勧めています。
経口補水液には種類があり、塩分や糖分の濃度を下げた低浸透圧の製品が使われています。小児の急性下痢では、低浸透圧の経口補水液のほうが、従来のWHO標準液より点滴に切り替える回数が少なく、嘔吐も少なかったという系統的レビュー(同じテーマの複数の研究を集めて、結果を統計的に一つにまとめた研究)があります。[4]これは経口補水液どうしの比較で、水やジュースとの比較ではありません。
薄めたりんごジュースについては、6〜60か月の子どもで脱水がほとんどない軽症の胃腸炎を対象にした試験があります。薄めたりんごジュースと好みの飲み物を与えたグループは、電解質入りの飲み物(経口補水液に近い、電解質を含む補水用の飲み物)を与えたグループより、7日以内の治療失敗が少なく、点滴も少ない結果でした。[5]ただし、この試験の対象は脱水がほとんどない子どもに限られます。中等度以上の脱水にもジュースでよいという意味ではありません。NICEガイドラインは、脱水の予防や治療の場面でフルーツジュースや炭酸飲料を控えるよう勧めています。



一度にたくさん飲ませず、少しずつ、こまめにが合言葉です。
| 子どもの状態 | 飲み物の考え方 |
|---|---|
| 脱水がほとんどない軽い胃腸炎(6〜60か月の試験) | 薄めたりんごジュースのあとに好みの飲み物を続けた群で、治療失敗が少なかった[5] |
| 脱水がある子ども(米国の総説、英国NICE) | 米国の総説では、軽い脱水は口から水分を補う方法が中心、中等度の脱水には経口補水液が推奨されている[1]。経口補水液は少量ずつ頻繁に与えるとされている(英国NICEガイドライン、5歳未満が対象) |
| 経口補水液を嫌がる子ども(英国NICE、5歳未満) | 危険なサインがなければ、いつもの飲み物(母乳・ミルク・水)での補足を考える。ジュースと炭酸飲料は控える(英国NICEガイドライン、5歳未満が対象) |
一回に飲ませる量や間隔は、子どもの月齢と体重で変わります。かかりつけ医に具体的な目安を聞いておいてください。
子どもの嘔吐で経口補水液を使うとき、母乳やミルク、食事は続けてよい?
子どもの嘔吐で経口補水液を使うときも、母乳は続けます。英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)は、脱水がない子どもでは母乳やミルクを続け、水分をとるよう促すことを勧めています。脱水の治療中も、母乳は続けながら経口補水液を与えるとされています。
固形の食事については、同じガイドラインは、補水の治療中は与えず、補水が済んだら普段の食事に戻すとしています。補水のあとは、ミルクは薄めずにすぐ再開し、フルーツジュースと炭酸飲料は下痢が止まるまで避けるとされています。これは英国の推奨です。日本の医療機関では説明が異なることもあります。



食べられないことより、水分がとれているかのほうが大切な時期です。
食事を再開する時期や、離乳食の進め方で迷うときは、診察のときにかかりつけ医へ聞いてください。
経口補水液を吐いてしまうときは点滴が必要?
吐いたからといって、すぐに点滴になるとは限りません。米国の総説(対象は子ども)では、吐くのを防いで経口補水液を飲みやすくするため、必要に応じて吐き気止めのオンダンセトロンが処方されることがあります。[1]吐き気止めは診察で必要と判断されたときに処方される薬です。家庭にある薬を自己判断で使わず、すでに使った薬があれば名前を医師に伝えてください。
点滴が推奨されるのは、口からの補水と吐き気止めで改善しない子どもと、重い脱水の子どもです。重い脱水とは、ショック(血液の巡りが保てず全身に血液が十分届かない危険な状態)の兆候がある、または体重の10%を超える水分が失われた状態を指します。[1]
経口補水と点滴の比較では、中等度の脱水の乳幼児(8週〜3歳)を対象にした試験があります。診療下で、経口補水は点滴に劣らない結果でした。[6]17件の試験をまとめたレビュー(小児の胃腸炎による脱水)でも、経口補水のほうが治療失敗はやや多いものの、点滴との臨床的な大差はなく、入院期間は短い傾向でした。[7]ただし、これらは口から水分をとれる状態の子どもの結果です。吐き続けて飲めない場合に点滴が不要という意味ではありません。



「何をどれだけ試して、どうなったか」を順に話せると、次の手を考えやすくなります。
| 家庭での様子 | 診察で相談すること |
|---|---|
| 少量ずつ飲ませても経口補水液を吐く | 吐き気止めを検討する状態かどうか |
| 吐き気止めを使っても補水が進まない(米国の総説は子どもが対象) | 口からの補水と吐き気止めで改善しない子どもには、入院と点滴が推奨されている(米国の総説)[1]。必要かどうかを医師に相談する |
| 尿が減り、最後の尿から時間がたっている | 脱水が進んでいないかを診てもらう |
吐いた時刻と、その直前に何をどれだけ飲ませたかを記録し、診察で順番に伝えてください。
子どもの嘔吐や下痢はどれくらい続く?悪化のサインは?
英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)によると、胃腸炎の嘔吐は通常1〜2日、多くは3日以内におさまり、下痢は通常5〜7日、多くは2週間以内におさまります。この期間を過ぎても治らないときは、相談するよう勧められています。
オランダの時間外の一次診療を受診した子ども359人を7日間追った研究では、ほとんどの子どもで症状が5日以内に減りました。一方で、31人が紹介や入院を要する経過になりました。[8]悪化した子どもは、受診時と経過中の嘔吐の回数が多い傾向でした。研究は、悪化の予測には嘔吐の期間より回数が重要だとしています。[8]



日数よりも、飲めているか、おしっこが出ているか、ぐったりしていないかを見てください。
英国のNICEガイドラインは、保護者が医療者に連絡すべき脱水のサインとして、さらに具合が悪くなっていく様子、反応の変化、尿量の減少、青白い・まだらな皮膚、冷たい手足を挙げています。経口補水液を拒むときや吐き続けるときも、相談するよう勧められています。
意識がもうろうとしている、顔色が悪く手足が冷たいなど、強い不安を感じる様子があるときは、夜間でも救急の受診をためらわないでください。
子どもの発熱と嘔吐で、胃腸炎ではない病気が隠れていることはある?
英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)は、胃腸炎以外の病気を疑う目安として、血や粘液の混じった便、緑色の嘔吐、強い腹痛や限られた場所の腹痛、おなかの張りなどを挙げています。首が硬い、発疹が消えない、呼吸が速いなどのときも、別の病気が疑われます。
なかでも腹痛を伴うときは虫垂炎(いわゆる「盲腸」の炎症)も考える必要があります。就学前の子どもでは典型的でない現れ方が特に多いため、右下腹部を痛がらないからといって否定はできません。[9]



おなかの痛みは、飲めるかどうかとは別の大事な手がかりです。
どこを痛がるか、痛む場所が途中で変わったか、便に血が混じるか、嘔吐が緑色かどうかをメモして、医師に伝えてください。
子どもの発熱と嘔吐で受診するとき、医師に何を伝えればよい?
子どもの発熱と嘔吐で受診するときは、飲めた量、尿、嘔吐、便と熱、腹痛、持病と薬の6点を、時刻や日数を添えて伝えると診察が進めやすくなります。飲めた量・尿・嘔吐は、脱水の程度を判断する材料になります。[1]便に血が混じるか、熱が何日続いているかも、診察で伝えると役立ちます。



スマートフォンのメモに時刻つきで残しておくと、伝えもれが減りますよ。
| 伝える項目 | メモの例 |
|---|---|
| 飲めた量 | 経口補水液を小さじで数回、昼から合計でコップ半分 |
| 尿 | 朝7時が最後で、いつもより少ない |
| 嘔吐 | 昼から4回、飲んだ直後に吐く |
| 便と熱 | 水のような下痢が3回、血は混じらない、熱は2日目 |
| 腹痛 | へその周りが痛み、場所は変わらない |
| 持病と薬 | なし、またはあり(病名と薬の名前) |
診察の最後に、「口からの補水を続けてよい状態か」「うまく飲めなかったら次にどうするか」の2点を確かめてください。
まとめ
- 脱水の程度は診察で評価されます。家庭では、飲めた量・尿・嘔吐・様子を時刻つきで記録します。
- 経口補水液は少量ずつ頻繁に与えます(英国NICEガイドライン、5歳未満が対象)。母乳は続けます。
- 吐いて補水が進まないときは、吐き気止めや点滴が必要かを医師に相談します。
- ぐったりしている、尿が減っている、顔色が悪く手足が冷たいなどのときは、早めに受診します。
よくある質問
- 経口補水液はいつから使えばよいですか?
米国の総説では、子どもの急性胃腸炎で中等度の脱水があるときに経口補水液が推奨されています。[1]脱水の程度は診察で評価されるため、飲めた量と尿の変化をメモして受診し、経口補水液に切り替える段階かどうかを医師に質問してください。
- 経口補水液を嫌がって飲まないときはどうしますか?
英国のNICEガイドライン(5歳未満が対象)では、飲むのを拒むときや吐き続けるときは、医療者に相談するよう勧められています。危険なサインがなければ、いつもの飲み物での補足を考えることもあります。どの方法が合うかは診察で確かめてください。
- 嘔吐が続くとき、点滴になることはありますか?
米国の総説では、口からの補水と吐き気止めで改善しない子どもや、重い脱水の子どもには、入院と点滴が推奨されています。[1]少しずつ飲ませても吐いて補水が進まないときや、尿がはっきり減っているときは、早めに受診してください。吐いた回数と最後に尿が出た時刻を伝えましょう。
- 発熱と腹痛があるときも、胃腸炎と考えてよいですか?
子どもの発熱と腹痛では、虫垂炎も考える必要があります。就学前の子どもでは典型的でない現れ方が特に多く、右下腹部を痛がらなくても否定はできません。[9]痛む場所とその変化、食欲の有無を、補水の様子と一緒に医師へ伝えてください。
【免責事項】
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、医師による診察・診断・治療に代わるものではありません。記載内容は公開時点の医学的知見に基づいていますが、個々の患者さまの病態や背景によって適切な対応は異なります。
症状にご不安がある場合は、かかりつけ医や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
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- Spandorfer PR, Alessandrini EA, Joffe MD, Localio R, Shaw KN. “Oral versus intravenous rehydration of moderately dehydrated children: a randomized, controlled trial.” Pediatrics, 2005 Feb; 115(2): 295-301. DOI: 10.1542/peds.2004-0245 PMID: 15687435
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