こんばんは。仙台空港北クリニック院長の蒲生俊一(医学博士 / 呼吸器専門医)です。
※当記事は文末「参考文献」を根拠としています
新型コロナウイルスに感染し、いわゆる新型肺炎(当記事下部のリンク参照)になると「さらに別のタイプの肺炎を併発する」という情報がネットなどでちょくちょくと流れてきていると思いますが、それを知って、
「肺炎の併発対策として肺炎球菌ワクチンを接種しといたほうが無難でしょうか?」
という質問を受けることがしばしばあります。
科学的事実として、肺炎球菌ワクチンは新型コロナウイルス感染症に対し直接の予防効果はありません。しかし結論としては「高齢者や免疫不全状態の方などは接種を推奨します」というアドバイスになってしまいます。なぜでしょうか?
今回は、
ウイルス感染には細菌(ばい菌)などの混合感染が時折見られ、重症化の要因となるので注意!
という、感染症の治療に携わる者が必ず押さえておかなければならない知識につき、新型コロナとも絡めて皆さんにシェアします。
新型コロナなどによるウイルス性肺炎は、細菌性肺炎の合併に注意
新型コロナウイルス感染の臨床経過を時系列で見ていきましょう。
熱や悪寒、咳などかぜ症状、味覚や嗅覚障害など
およそ80%の人は軽症のまま治る
一部(20%程度)は入院加療が必要に
新型コロナに限らずインフルエンザなどでも、ウイルスの気道感染後に細菌感染を来しやすい2
更に人工呼吸器関連肺炎などに陥る場合も
この中で「新型肺炎と別の肺炎を併発」と言っているのは主にSTEP 3のことです。ウイルスの気道感染を来すと、同時に或いはその後に、細菌性の肺炎を来しやすい2事が知られております。
STEP 3で併発する細菌感染の起因菌(原因となる菌)は?
主にインフルエンザ肺炎に伴う細菌性肺炎が流行期には起こりやすい為、その起因菌に関する報告も豊富です。この細菌性肺炎の起因菌は多い順に
- 肺炎球菌
- 黄色ブドウ球菌
- インフルエンザ桿菌
となっており2、特に肺炎球菌の関与が多いと言われています。ウイルス感染後に細菌性肺炎を来してしまうと重症化しやすい事が知られている為、注意が必要です。
STEP 4で併発する人工呼吸器関連肺炎は致死率が高い
新型コロナウイルス肺炎が悪化してしまい、自力での呼吸が困難になってしまった場合は人工呼吸器を装着することがあります。
意識がある状態で人工呼吸器を装着すると大変つらいので、基本的に麻酔をかけて眠ってもらい気管内挿管を行います。
人工呼吸器を開始してから48時間後以降に発症した肺炎を「人工呼吸器関連肺炎(Ventilator-Associated Pneumonia: VAP)」と呼びます。致死率が非常に高く大変危険な状態です。
原因は、人工呼吸器に付着する細菌や院内で発生する耐性菌(緑膿菌やMRSA)に加え、口腔内分泌物(つばなど)や胃内容物が逆流したものを誤嚥(※)した場合など2です。肺炎球菌が関与するものではないものの、通常の抗菌薬が効きにくい、いわゆる耐性菌が原因となる事が多い為、こちらも非常にやっかいな肺炎です。
※誤って気管に飲み込んでしまうこと
65歳未満の健常人がコロナを理由に肺炎球菌ワクチンを接種する必要性は乏しい
文章が散らかったのでここまでをいったんまとめます。
新型コロナウィルスに感染して悪化するとウイルス性肺炎になります。この症状悪化の過程において細菌性肺炎を合併する事があります。
そして、これらウイルス性肺炎に合併する細菌性肺炎の起因菌として、肺炎球菌の関与する場合が多いため、こちらの予防という意味では、肺炎球菌ワクチン接種はたしかに有効と考えられます。
しかしながら、現在日本で使用できる肺炎球菌ワクチン2種(ニューモバックス、プレベナー)については、その適応が
ニューモバックス:
・高齢者(65歳以降定期接種)
・2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患リスクの高い者
プレベナー:
・高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者 (2020年5月29日より小児および高齢者以外にも適応拡大)
・小児(定期接種)
それぞれ添付文書(ニューモバックス、プレベナー)より。またそれぞれワクチンの特徴は当院の別の記事で解説しています
となっており、小児および高齢者以外で、かつ健康な方にはこれらワクチンの適応がありません。
一方で、重症化リスクのある方は接種が推奨されます。ワクチンの添付文書より、具体的には以下に該当する方たちです
・慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患
・糖尿病
・基礎疾患若しくは治療により免疫不全状態である又はその状態が疑われる者
・先天的又は後天的無脾症(無脾症候群、脾臓摘出術を受けた者等)
・鎌状赤血球症又はその他の異常ヘモグロビン症
・人工内耳の装用、慢性髄液漏等の解剖学的要因により生体防御機能が低下した者
・上記以外で医師が本剤の接種を必要と認めた者
これらをシンプルにまとめると結論はこうなります。
- 65歳未満の健康な人は、コロナ対策として肺炎球菌ワクチンを接種する必要性は乏しい
- 65歳以上の方や小児は、肺炎球菌ワクチンはもともと定期接種であり、接種推奨
- 65歳未満でも上記の重症化リスクのある方は、新型コロナウイルス感染後の細菌性肺炎予防目的という意味でも接種推奨
肺炎球菌ワクチンに関しては、新型コロナウイルスに限らず、上記に該当する方には基本的に接種が推奨されます。しかしながら、重症化リスクのある無しの判断や、定期接種のタイミングや接種の仕方についてもややこんがらがりやすい薬剤であるのも確かですので(※これに関して呼吸器専門医試験の問題が作れる程度にはややこしい)、気になる方はいらした際にご質問下さい。出来る限りわかり易く説明致します。
以上
参考文献
- 1.厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部. 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2版」. 厚生労働省; 2020. https://www.mhlw.go.jp/content/000631552.pdf
- 2.日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会, ed. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会; 2017.